中国の電力不足と石炭依存

中国は、慢性的な電力不足の状態にあります。

電力需要の伸びに対して、供給体制整備が追いつかず、
2004年、2005年の夏には、多くの大都市が停電せざるを得ない状況になりました。

2008年も「記録的電力不足」に陥り、
さらに2011年夏には3000万KWの不足、
2012年夏は、「経済成長の減速で予想よりも緩和された」(中国政府)と言いながら4000万KWの不足。

これに対して中国は、輪番停電(計画停電)を実施して対応しています。

これは、各地方政府が経済寄与度など独自のランク付けによって電力供給する地域、企業などを決め
ある意味、恣意的な判断により「停電を計画」し、実施するものです。

この輪番停電方式にも不満が渦巻いているようですが、
最大の問題は、電力不足状況は「今後も、長期にわたって続く」ということです。

中国の停電と石炭依存

中国は今や世界最大の電力消費国です。
(2010年の中国の電気消費量は4.2兆kwとなり、これまで世界最大であった3.9兆kwの米国を抜きました)

この急速な中国の電力需要の伸びに対して供給体制が間に合わないことが
電力不足⇒停電の頻発、をもたらしているのですが
中国は、これからもこの構造から抜け出せない根本的な問題を抱え込んでしまっています。

中国の発電のエネルギー構成

中国では発電の約8割が「石炭」火力です。

そして、石炭埋蔵量で世界第3位の中国はこれまで石炭「輸出国」だったわけですが
2011年に「これまで世界最大の石炭輸入国であった日本」を抜き去り、
今や、中国が世界最大の石炭「輸入国」となっています。

当然、輸入ものの比率が高まり、石炭価格は2倍以上に高騰しています。

発電コストが跳ね上がってしまったわけですから
電気料金を上げて対応するしかないのですが、
中国政府は電気料金引き上げをなかなか認めず、電力会社は、発電すればするほど「赤字」になる、
という構造に置かれています。

こうなれば、電力が不足し、停電が頻発する事態であろうが、電力会社は電力供給を抑え込み、
(電力会社の設備稼働率は6割です)
新たな設備投資の意欲が生まれるはずもありません。

だとしたら、電力料金をコストに見合った水準まで引き上げればいいではないか、
と、誰もが思うわけですが、中国には当面それができない事情を抱え込んでしまっており
それが中国の電力不足の根本問題となっています。

なぜ電気料金引き上げができないか?

中国の電力不足は、電力料金に引き上げを行えば、当面の期間については
問題が解決します。

では、なぜ中国政府はそうしないのでしょうか?

そこには現在の中国が抱える構造上の問題が背景にあります。

まず、インフレです。

経済成長が鈍化し、景気の先行きに不透明感が増している中国ですが
インフレ圧力は増大しています。

2011年の消費者物価上昇率は、5.3%。
食品だけに限れば12%も上昇し、この5年で5割も食品価格が高騰したことになります。

もし、2倍にもなった石炭価格コストを吸収するほどの電気料金値上げを行えば
それがあらゆるコストアップにつながり、さらなる物価上昇をもたらしてしまうのです。

もう一つの要因は、中国の成長システムが壊れ始めていることと関係します。

中国はこれまで、外資導入(外国企業の誘致)を成長エンジンにしてきたわけですが
それは、労賃の安さ、電気料金の安さ、人民元の安さ、によって成功してきたわけです。

それがここ数年で急激に崩れてしまっています。

インフレにさらされる中で労働コストは上昇を続けていて
人民元は、2005年に固定相場制から管理変動相場制に移行して以降、対ドルで30%近く高くなっています。

つまり、海外メーカにとって、生産拠点、輸出拠点としての中国は魅力を喪失していて
中国の成長メカニズムは機能しなくなり始めているのです。

中国政府としては、この状況下で電力料金の大幅値上げに踏み切ることができなくなっています。

では、どうすればよいのでしょうか?

発電の「石炭依存」からの転換を短期間に成し遂げる以外に方法はないのですが、
2012年7月に全面稼働となった三峡ダムにしても
内陸部の降雨量の減少によって発電量は当初見込みよりも相当少なくなると見られていますし、
(これは温暖化の影響と考えられ、だとすれば、降雨量減少は今後も続く可能性が高い)
強気の原発建設も、技術水準の低さや、技術者不足から考えると、
きわめて危険度の高い方針と言えるでしょう。

中国の電力各社は、自然エネルギー(代替可能エネルギー)へのシフトを鮮明にしており、
今後、新規設備投資の半分を自然エネルギーにするとの方向性を打ち出しています。

温暖化や酸性雨をもたらす「石炭依存」から自然エネルギーへの転換は時代が要請していことであり
隣国日本としても当然歓迎すべきことですが、
目の前の「電力不足」の解消という面だけから見ると解決策にはなりえないでしょう。

中国の電力不足は、今後しばらくは続く、と見ざるを得ません。

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